クラウド化する世界(ニコラス・G・カー)

クラウド化する世界~ビジネスモデル構築の大転換

クラウド化する世界~ビジネスモデル構築の大転換


一部と二部で大きくわかれている。一部はGoogleAmazonSalesForceなどのクラウドコンピューティングサービスを展開する先進企業群がどんなサービスをやっているかという紹介をしつつ、コンピューティングのインフラ化を過去の電力のインフラ化になぞらえて説明している。クラウドコンピューティングの説明と電力の普及の対比は分かりやすく面白い。とくに、私個人は電力業界もエジソンの会社のやったこともさっぱり知らなかったので、電力業界史としても興味深かったし、現在のIT業界の動きをうまく説明できていた。サラっと読む感じが良しかと思う。
二部は、一部で書いてあったクラウドコンピューティングが個人、企業、政府、民主主義など社会広範にどういった影響を及ぼすかについてネガティブサイドから書かれている。梅田望夫氏の展開するパラダイスな世界とは異なる世界像が展開されており、バランスを取るためにもヒッピーライクなインターネット楽観主義の人にとっては必読ではないだろうか。
私自身は、中長期的にはインターネットによる個人へのパワーシフトを信じつつも、個人のパワー束ねてマネタイズするビジネスマンとしての信条もあり、個人の力を全く関係ない(個人が望んでない)企業収益に変換するという時点で、個人を凌駕するポジションからの施策を立案してるわけであり、なかなか難しいポジション。本当に全てのパワーが個人にシフトしてしまえば、企業がネットで出来ることなど、ほとんど何もなくなってしまうのだろうから。

旧来の工業化時代には巨大な発電所が電力を供給したように、我々の情報化時代においてはコンピュータプラントが動力を供給するのだ。この最新の発電機がネットワークに接続して、企業や家庭に膨大な量のデジタル化情報やデータ処理能力を供給するようになるだろう。【p.7】

何より難しいのは、大企業に自社のシステムを管理・運営することをあきらめさせて、多額の資金を注ぎ込んだデータセンターを解体させることだ。【p.73】

新技術の変革力の本質は、経済的選択肢を変化させることにある。多くの場合、経済的選択肢は認識されることもないまま、大なり小なり、我々が下すさまざまな決定に影響を及ぼす。そうした決定が積み重なって、教育、住居、仕事、家庭、娯楽など、我々の存在と行動にかかわる基本が決定されるのである。要するに、安価な電気を中央から供給することが日常生活の経済を変えたのである。かつては不十分だったエネルギー −すなわち、産業機械に動力を与え、家庭用機器を動かし、照明に光をともすためのエネルギーが潤沢になったのである。まるで巨大なダムが決壊したかのような勢いで、産業革命の最大限の力が解放されたのだ。【p.104】

確かに、コンピュータとインターネットは、人々が自己を表現し、自分の作品を多くの観衆に配信し、さまざまな"モノ"を協力し合って製作するための、新しい強力なツールを与えてきた。しかし、こうした主張には単純に過ぎる、あるいは少なくとも近視眼的な側面がある。このユートピア的なレトリックは、市場経済が急速にギフトエコノミーを取り込みつつあるという事実と合致しない。 〜中略〜 さまざまな企業が、インターネット上で贈り物をする多くの人々を、世界規模の割安な労働力源として利用している。【p.169】
※原文では太字協調は無いです。

もしニュース産業が時代の流れを暗示しているとしたら、我々の文化から淘汰される運命にある"石屑"には、多くの人々が「優れたもの」と判断するような産物も含まれてしまうだろう。犠牲になるのは、平凡なものではなく、質の高いものだろう。ワールドワイドコンピュータが作り出した多様性の文化は、実は凡庸の文化であることがいずれわかるだろう。何マイルもの広がりがありながら、わずか1インチの深さしかない文化だ。【p.187】

この種のツールによって形作られたオンラインコミュニティは、物理的に近い人間関係によって形成されるコミュニティよりも、結局のところ、多様性に乏しいのである。「分化した複数のコミュニティが、地理的境界を超えて合体するにつれて」、物理的的世界の多様性は「仮想世界の均質性に取って代わられるだろう」【p.194】

コンピュータシステムは一般的に、そしてインターネットは特に多大な力を個人に与えるが、その個人をコントロールしている企業、国家、その他の機関にはもっと大きな力を与えているのである。コンピュータシステムは、根本的に人間解放のテクノロジーなどではない。それはコントロールのテクノロジーである。【p.228】

「ネットワークとは、それが神経、コンピュータ、言語もしくはアイデアであれ、明確に規定される必要のない問題に対する、探しあてられることを自ら望んでいる回答を含有している」ものであることを、グーグルの技術者たちは理解している。【p.228】